Pocket Quicken
これがあるからあの機械を使っていたと言っても過言ではない、驚異の金銭管理ソフト。それがPocket Quicken(PQ)だ。 国産の機械にこれほど完成度の高いものが搭載されていたことはもちろんないし、もっと言えばいまだに日本ではこれを超えるものは寡聞にして知らない。家計簿ではないので、ちょっと便利なあの機能、などと日本のメーカーが盛り込みがちな姑息な機能はない。だが完全に複式簿記の構造を持ちReconcileもしっかりでき、QuickFillをはじめとして入力のテンポも小気味良い。最近Windows CEなどに出されているPQはPCのQuickenの入力端末という性格が強いようだが、電脳パンツのPQはフル装備であった。
さて、My-Symbian.comなどで探してもS60用の金銭管理用ソフトウェアは数少ない。単純なExpense Tracker(支出記録簿。まあお小遣い帳だ)は興味がないので除外すると、FlyingBird SoftwareのFlying Money Manager(FMM)くらいしかない。
Flying Money Managerを使う
FMMのバージョンv1.7(2)を試してみた。まだ操作性はこなれていないが、初期の様子からは著しく改善され、検討に値する。金額は9,999,999.99まで入力可能となった。私のような貧乏人ならば使用しうる。USDとかEURで使うなら小金持ちにも対応可能だろう。小数部を頑張って使わなくてもよくなった。
表示が改善され、アイコンにも異状はない。
落ちにくくなったようだ。私自身はまだ異常終了に出会っていない。
資金移動は固有の取引形態と定義され履歴が残るよう改善された。これは改善だが、あまり良い仕様ではない。
資金移動については説明が必要だろう。FMMでは、まずCategoryをIncome/Expense/Savingに分類して定義する。そして記帳の際は、まずDeposit/Payment/Transferを指定する。そしてDepositならばIncome科目を、PaymentならばExpense科目をCategoryとして選択し、TransferならばAccount From/Toで各々の口座を選ぶ。一方、PQではCategory欄(通常はいずれかのCategory=勘定科目を指定する場所)の指定がいずれかのAccountならば作業中のAccountとCategory欄で指定したAccountとの間の資金移動となっていた。Account(口座)とCategory(科目)を区別なく使えたわけだ。PQに比べFMMではメニューをたどる手間が多い。その代わりに作業中のAccountという概念もないので取引登録の際にどのAccountでの処理かを個別に指定できる。しかしさらに逆に言えばいちいち指定しなければならないわけで、この辺がこなれていないというわけだ。PQは柔軟さと簡便さとのバランスがとれている。
もっとも、Windows Mobileにしても私が望むレベルのPersonal Finance Softwareは出ていないようだ。
何が必要なのか
Personal Financeに分類されるPDA用のソフトウェアは少ないが、数が少ないことよりも機能が不足している製品ばかりということが問題だ。改めて必要と思う点を列挙してみよう。
つくりが複式簿記
単式簿記の製品は論外と言ってもよいが、意外にある。Windows(非CE)用の製品でも「家計簿」「小遣い帳」などを謳うものは疑ってかかった方がよい。
幸いFMMは複式簿記になっている。
ドリルダウンできること
Accounts(口座)、Categories(科目)、Trip/Client/Project/Class(プロジェクト等。部門コードなんかでもよさそう)ごとに残高(P/L科目の場合は今期発生額)一覧からドリルダウンしてその口座/科目/プロジェクトの取引だけを見ていくことができると便利だ。というかそうしないと総勘定元帳を読むことになりやっていられない。
現行(v1.7)のFMMはこれができない。Accountsで残高の一覧は見られるが、そこから関連する取引を見ていくことができない。取引を一定条件で(それなりに柔軟に)フィルタリングして一覧することはできる。もう一息という感じもするのだが。
Reconcile相当の機能があること
残高の帳尻合わせをする目的は使途不明金の記録ではない。いろいろ確認する中で記帳漏れや二重記帳を発見したり金額や日付の間違いを訂正したりすることが大切だ。これを定期的に行う必要がある。クレジットカードの締め処理が典型。
残念ながらFMMにはこの概念がないので利用者は頑張って手動Reconcileするしかない。リスト印刷して手でcrossoutしていくのが間違いなさそう。
QuickFill相当の機能があること
特に入力負荷が大きいPDAでは大切である。日本の場合FEPを利用して楽をすることもある程度できるが、やはりアプリケーション固有の省力化というのもあるので個別対応が欲しい。これがあればMemorized Transactionsは必ずしもいらない。
こうして見ると、どれも安直に追加できる機能ではない。いかにPQが凄かったかがわかる。もっともHP200LXは日本では10万円ほどだった時期もあるのだから1-2-3も含め本格的なアプリケーションが載っていてもおかしくなかったのかもしれない。またPQが開発された頃はLotusもお金があったことだろう。同じ条件を今の端末業界に期待してもそれは無理というものだ。
いっそのこと、誰かHP200LXのエミュレータでも作ってくれないものか。PocketDOS+コネパクではPQが動かないから。
FMMの課題
課題と言っても私が製作している訳でもないのだから要望事項なのだが、単に要望と言うよりもやはり仕様として問題だと感じるところを挙げてみる。日本語版がない
口座名や科目名、取引相手などに日本語を書き込むことは問題なくできるから実用上支障はないし実際私はそうして普段遣いしている。が、日本語版がないというのはとりもなおさず日本人ユーザーが少ないということを示していて、これは表示の問題だけでなくロジックの部分に響いてくるはずなので問題だと思うのだ。
Sync(Export/Import)での文字化け
ほとんどの動作で日本語を使っていても挙動不審な点はないので内部処理は普通にUnicodeで行っているのだろうと思うが、Sync»ExportでQIFを作ってみると日本語で書いた部分がすべて0x01(^A)になってしまう。書き出す際にPython風に言えば outfile.write("P%s\r\n" % transaction.payer.encode("ascii", "replace")) のようなことをしている感じである。PayerだけでなくCategory(勘定科目)の部分もそうなので、実際問題として日本語を使った帳簿は書き出せないのと同じだ。
※FlyingBird Softwareのサポート掲示板によればこれは現時点での仕様でexport to Unicode or UTF-8 is not supported yet. You can only export english words.だそうである。商品としては困ったものだ……。
※全体設定の中にはCSV Formatという項目がありASCIIとUnicodeを選ぶようになっているが、こちらも単にASCIIを16ビット幅にしたものがUnicodeでしょという作りになっているような気がする。が、まだ試していないので評価は避ける。
金額の表示が小数部2桁固定
Westernな国々では標準的だろうが日本では困る。ところがこれは根深い問題のようでPQでもどうにもならなかった。ま、あれは明確に米国版だったのだが。
やっぱりQuickFillが欲しい
仕訳登録に際して指定させるDeposit/Payment/Transferの別がCategory選択時に反映されない
PaymentなんだからExpenseで選ばせてほしいものだ。
いろいろとbuggy
たとえば、Accounts»Ending Totalで指定日時点の残高を算出する機能があるが、日付指定の際にYYYY-MM-DDを指定する入力欄でカーソルキーが効かないのはともかくとして、ダイアログに表示される日付がMM-DD-DDとなってしまい(算出されている残高は正しいようなのだが)信じてよいものかどうかわからない。